Astrometry News 第3号(2008/06/03)

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  1. 論文紹介「軌道決定法における最近の動き」
  2. ILOMの最近の状況
  3. JASMINEおよびNano-JASMINEの進捗状況など
  4. VERAを含むJVN観測の最新成果
  5. ニュース記事の募集

論文紹介「軌道決定法における最近の動き」

弘前大学大学院理工学研究科浅田秀樹

天文学における基礎的な研究課題のひとつは,アストロメトリ(位置天文) の観測から,視線に対して軌道傾斜した2体系の軌道要素を求める(再現する) 方法の研究である.例えば,1801年,ガウスは太陽系の小天体の軌道決定公式 を発見した.同年,彼の成果を用いて,行方不明になった小惑星ケレスが再発 見された.19世紀以降,太陽系外の(両方の星が観測できる) 実視連星系に対 しても同様の軌道要素を求めるための手法が研究されてきた.

2004年,弘前大学の浅田らによって,片方の星しか直接観測できない位置天 文的連星に対する公式が求められた(Asada et al. 2004, PASJ, 56, L35).こ れにより,軌道長半径,離心率,軌道傾斜角,近点引数および公転周期が,従 来の手法のように数値解法を必要とすることなく,初等関数を用いるだけで観 測データから直ちに求まるようになった.しかし,7個の軌道要素(注:中心天 体の質量が既知である惑星の場合は6個)のうち,近点通過時刻と昇交点経度に 対する関係式はこの2004年の論文では計算されていなかった.ところが,今回, これらの量もまた,観測量を用いた初等関数で書き表せることが示された.こ の結果,新しく提唱された方法と従来の方法との比較を7個全ての軌道要素に対 して行うことが可能となった.JASMINEのようなサーベイ観測では大量のデータ の取得が見込まれるので,今後,その解析に対して最適な軌道決定法の検討を 行う際に本研究が役立つものと期待される.

Asada 2008, PASJ 掲載決定     (arXiv:0804.1823) "Note on Inversion Formula to Determine Binary Elements by Astrometry".

ILOMの最近の状況

国立天文台RISE月探査プロジェクト花田英夫

1.ILOMの科学

ILOM(月面天測望遠鏡)計画で達成できる新しい科学を理論的に裏付けるこ と、そのための観測方法を明確にすること等を目的として、日ロ二国間共同研 究の一環として、ロシアのカザン州立大学と共同研究を昨年度から行っていま す。2008年3月18日に国立天文台のコスモス会館会議室で中間報告会を兼ねた 「日本の月探査機SELENEとILOMによる月の自転進化と内部構造、重力異常の研 究」研究会を下記のプログラムに沿って行いました。 本研究会では、回転観 測が月ばかりでなく火星等の他の惑星の内部構造解明にも有効であることが再 確認され、ILOMとしては、月の核が融けているかどうかは自由コア章動を検出 することが有効であるとの提案がなされました。

  1. Petrova N.(1,2), Barkin Yu.(3), Gusev A.(2), Ivanova T.(4), Sidorenko V.(5): Completed theoretical investigations of the lunar geodynamics, of the secular spin-orbital evolution and physical libration of the multi-layer Moon in a frame of the Russian-Japanese grant
  2. 日置幸介:火星の地形と重力:火   星のアイソスタシーについて
  3. Petrova N.(1,2), Barkin Yu.(3),
  4. Gusev A.(2), Ivanova T.(4), Sidorenko V.(5), Akutina M.(2) : Physical libration of the multi-layered Moon: modern theoretical and applied aspects, modelling of internal structure
  5. Ivanova T.(4) : Poisson series processors for analytical calculations in astronomy
  6. 花田英夫、荒木博志、野田寛大、 鶴田誠逸、田澤誠一、河野宣之 佐々木晶、船崎健一、日置幸介: ILOMの現状−科学目標、シミュ レーション、実験
  7. 日置幸介:火星の重力と地形の季 節変化:積雪密度の季節変化から 見る火星積雪の圧密

(1:国立天文台、2:カザン州立大学、3:モスクワ大学、4:ロシア科学院 応用天文学研究所、5:ロシア科学院応用数学研究所、6:岩手大学、7:北海道 大学)

2.望遠鏡BBMモデルを用いた実現性の検討

ILOMの技術的な検討および要素技術の開発について、1999年7月に締結、 2006年4月に更新した協定書「国立天文台RISE推進室と岩手大学工学部との月 面探査観測機器の開発研究に関する基本的事項についての覚書き」に基づいて、 岩手大学と共同で行っています。また、星像中心位置高精度決定技術の開発は 国立天文台JASMINE検討室と共同で行っています。その中で、岩手大学との共同 研究については、昨年度は望遠鏡BBMモデルを完成させました。今年度は、望遠 鏡BBMモデルを用いて地球上で実際の星の軌跡を記録し望遠鏡の姿勢を求めるこ とを目標に、1)疑似星像のCCDへの記録、2)疑似星像中心位置の測定と精度 評価、3)傾斜補償機構の評価、4)真空中での駆動性能の評価、5)実際の 星の軌跡の観測結果の解析と精度評価という順番で段階的に行っています。

(参考)ILOM計画とは?

In-situ Lunar Orientation Measurementsの頭字語で、月面に望遠鏡を設置 して位置天文観測を行い、月の内部構造を明らかにしようという計画です。星 の位置を1ミリ秒角以下の精度で1年以上観測を続ければ、月の自転軸の揺らぎ や自転速度の変動の成分に含まれる、月の中心核の情報(地球と同じように鉄 を主成分とした核が存在するか? 解けているか?)や、マントルの情報(ど の程度非弾性的か?)を検出することができ、月の起源と進化の解明に大きな 貢献ができます。最近、アポロ探査機の月レーザ測距、月震、熱流量等のデー タの再解析が系統的に行われ、月の中心核が融けているかもしれないというこ とが言われ始めている中で、ILOM計画は月の熱史を知る上で極めて重要な情報 を提供することを目標としています。

JASMINEおよびNano-JASMINEの進捗状況など

国立天文台JASMINE検討室郷田直輝

アストロメトリニュース愛読者の皆様、こんにちは。ニュース第2号の発行 (2008.2.8)より現在までのJASMINEおよびNano-JASMINEプロジェクトでの主な 出来事、動きなどを以下にご紹介しておきます。

1.国立天文台内の動き:

○国際外部評価が(1月から2月にかけて)全台的に分野毎に行われてきた ことは前号でお伝えしましたが、国立天文台の全体的レビューも去る5月9日 と10日に行われました。評価レポートはまだですが、今後の天文台での観測 衛星開発の進め方、そしてJAXAとの関係について等がレポートでもふれられる ことと思います。

2.光赤外天文学分野内での動き:

特にありません。

3.JAXA宇宙科学研究本部での動き:

○3/12に行われたJAXA宇宙科学研究本部宇宙理学委員会において、新しい中 型版バージョン(主鏡口径80cmでバルジ方向のみをサーベイする)の JASMINEに対するワーキンググループの設置が審議され、御陰様で設置をお認め いただきました。

4.観測システム関係の検討状況

光学系に関して、Kwバンド(K-バンドを含むJASMINE特有のバンドで、中心波 長は2.0ミクロン、波長領域は、1.5〜2.5ミクロン)で広視野かつ良像が得られ る光学系設計を引き続き検討しています。また、望遠鏡の微小な(10pm)構造変 動を測定するレーザー干渉計型モニタの開発実験も順調に進んでいます。

5.衛星システム関係の検討状況

19年度は、JAXA筑波宇宙センターのエンジニアの方達10名、および宇宙 研の工学系の先生1名と集中検討を行ってきましたが、ある程度の見込みをつ けることができて、今までの検討状況を整理したレポート(検討報告書)を作 成しました。詳しくは、後日にお配りする予定の検討報告書を御覧下さい。

6.Nano-JASMINE関係の検討状況

○観測措置、衛星システムの開発の方は、ほぼ順調に進んでいます。

○打ち上げに関して、小林行泰氏(国立天文台)を含む4名が2月末から1 週間程度、ウクライナを訪問しました。ロケット開発のユジノエ社、ウクライ ナ宇宙庁、日本大使館を訪問し、MOU(契約に向けての覚え書き)についての交 渉等をしてきました。そして、ウクライナのロケットによる打ち上げに関して は、国立天文台JASMINE検討室、東大中須賀研究室、ユジノエ社、アルカンタラ・ サイクロン・スペース社の4者により、5月にMOUがめでたく締結され、打ち上 げ契約に向けて始動することとなりました。

○Nano-JASMINEの開発担当の国立天文台研究員として、初鳥陽一氏(東大中 須賀研究室博士卒)が4月1日より着任しました。ミッション部では、新メン バー等への引き継ぎが行われ、開発や熱構造試験の準備が進みつつあります。 バス部は、中須賀研であらたに数名の学生が動員され、進展が早まることを期 待しています。

7.その他

○3月4日〜5日に位置天文の世界的権威者である、ケンブリッジ大学のvan LeeuwenさんにJASMINEのサイエンス、観測手法、技術課題等の全般的レビュー を受けてきました(van Leeuwen氏は、HipparcosやGAIAメンバーでもあり、最 近、Hipparcosデータの再解析を行い、新しいカタログや教科書を出版したとこ ろであり、アストロメトリの観測手法、データ解析、衛星技術に造詣が深い)。 その結果、サイエンスは、非常に強くサポートしてもらえたとともに、観測手 法、解析手法、重要な技術課題での誤りや重大な見落としはないことが確認で きた。さらに、解析方法で良いアドバイスをもらえました。

VERAを含むJVN観測の最新成果の最近の動き

国立天文台水沢VERA観測所本間希樹

VERAと大学や他の観測所・研究機関の望遠鏡を組み合わたJVN (Japanese VLBI Network)の最新の成果報告です。

VERA+NRO野辺山45m鏡+NICT鹿嶋34m鏡で行われた、大質量形成 領域Onsala 1の水メーザー観測から、この領域に2つの水メーザークラスター が約3000AU離れて存在していることがわかりました。また、固有運動計測から、 2つのクラスターの水メーザーとも双極流的なふるまいを示すことが明らかに なりました。この2つのクラスターの位置は、この領域にあるミリ波連続波の 2つのピークとほぼ一致する一方で、メタノールメーザーおよびHII領域が付随 している領域からは離れていることが判明し、数1000AU以内の領域でも進化段 階に系統的な差があることが見いだされました。また、水メーザークラスター の一つとHII領域に付随しているOB星が連星系を成している可能性も提示されて います。
文献)Nagayama et al. 2008, PASJ, 60, 183

また、6.7GHz帯のメタノールメーザーについても観測システムの整備 および試験観測が進められています。VERAと山口大32m、および JAXA/ISASの臼田64m鏡を組み合わせたVLBI観測によって、13天体につ いてマッピングが行われ、12天体についてマップが得られました。これらの 観測から、6.7GHzのメタノールメーザーは日本国内の基線(~2000km程度 以内)でも十分な強度で検出可能であることが実証されました。メタノールメー ザーは寿命が長く線幅も狭いことから、水やSiOメーザーと並ぶ位置天文観測の プローブとして重要な役割を今後果たすと期待されます。
文献)Sugiyama et al. 2008, PASJ, 60, 23

★ニュース記事の募集

このアストロメトリニュースへの投稿記事を皆様から募集致します。アスト ロメトリに関わることでしたら、何でも結構です。研究成果、論文紹介、国内 外のプロジェクトなどの紹介、ご意見、ご感想、なんでも歓迎致します。記事 を投稿して頂ける場合は、国立天文台JASMINE検討室の辻本 (taku.tsujimoto at nao.ac.jp)までお送り下さい。よろしくお願い申し上げま す。

発行:国立天文台JASMINE検討室・水沢VERA観測所・RISE推進室
発行責任者:国立天文台JASMINE検討室室長 郷田直輝、
編集:国立天文台JASMINE検討室 辻本拓司、