Astrometry News 創刊号(2007/11/21)

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  1. 創刊の辞(郷田直輝)
  2. 研究会「高精度アストロメトリ観測の時代を迎えた21世紀の天文学」の報告と集録のご案内(山田良透)
  3. IAU Symposium 248 "A Giant Step: from Milli- to Micro-arcsecond Astrometry"の報告(山田良透)
  4. JASMINEの最近の動き(郷田直輝)
  5. VERAの最近の動き(本間希樹)
  6. ILOMの最近の動き(花田英雄)

創刊の辞

国立天文台JASMINE検討室、郷田直輝

アストロメトリニュースの創刊にあたりご挨拶させていただきます。

次の山田良透氏による研究会の紹介記事にもありますが、去る2007年9月 19,20日に、国立天文台(三鷹)において、国立天文台研究会「高精度アスト ロメトリ観測の時代を迎えた21世紀の天文学」と題する研究会が行われました。 研究会の1つの目的は、次の通りでした。日本では、相対VLBIの手法を用いる 電波位置天文観測望遠鏡のVERA(ベラ)が稼働を開始し、成果が出始めている とともに、スペースからの高精度赤外線位置天文観測計画であるJASMINE(ジャ スミン)やさらには月面での高精度位置天文観測を用いた月内部の研究計画 (月面天測望遠鏡:ILOM(アイロム))などが進んでいます。このような時期 にあたり、アストロメトリ観測で今まで何が分かってきているのか、今後の観 測によって、近未来にどういう成果が期待されるのか、さらにどのようなサイ エンスがどのように拓けていくと考えられるか、そのために今なすべきことは 何か、といった議論を深めることを目的としました。

さらに2つ目の大きな目的として、今後得られる質、量ともに画期的なア ストロメトリ観測のデータを用いて、日本のコミュニティが一流のサイエンス を展開することができるような戦略を考え、国際的な競争力を高めることも目 的としました。この目的のために、研究会の最後に議論の時間を儲けました。 その結果、今後も定期的な研究会の開催や学会での企画セッションの提案など を行うことはもとより、アストロメトリコミュニティのつながりを恒常的に強 めるため、"アストロメトリニュース"の電子メールによる定期的な配信を行う ことになりました。ニュースでは、VERA、JASMINE、ILOMの進捗状況やVERA等 の科学的成果、国内外のアストロメトリの情報交換、コミュニティからの意見 や情報紹介、アストロメトリ関連の論文紹介などをお伝えしていくこととなり ました。

研究会の開催から創刊号の配信まですこし間が空いてしまい申し訳ありま せんでしたが、その間にも世界での位置天文の動きもあり、創刊号にふさわし く最新のニュースをお伝えできることになったかと思っています。今後もでき るだけ定期的に配信できるように努力は致しますが、皆様からの記事も期待し ております。アストロメトリに関わることでしたら何でも結構ですので、編集 者まで記事をご投稿下さい。お待ちしております。

このような活動を通じ、日本でのアストロメトリコミュニティの更なる発 展、将来計画の進展と実現が可能となることを強く祈り、創刊の辞とさせて頂 きます。

研究会「高精度アストロメトリ観測の時代を迎えた21世紀の天文学」の報告と集録のご案内

京都大学大学院理学研究科、山田良透

9月19日・20日の2日間、国立天文台のすばる棟大セミナー室で、表記の研 究会が開催された。研究会の詳細は国立天文台ニュースに掲載予定である。天 文学の各分野はもとより、プロジェクトにかかわる工学関係者なども含め、お よそ70名の参加があり、アストロメトリの高精度観測の現状や、これを生かし た今後のサイエンスについての議論が行われた。

集録は、web版でのみ公開される。すでに皆さんからいただいた発表原稿を、 以下のURLにて公開しているので、一度ご覧いただければ幸いである。

この研究会の時にアナウンスされたメーリングリストが、研究会参加者名 簿に基づいて作成された。アストロメトリに関する情報交換にご利用いただき たい。メーリングリストへのアドレスの追加・変更・削除については、メーリ ングリスト管理人山田宛てにご連絡いただきたい。

なお、研究会で紹介した書籍、HIPPARCOSのNew Reductionが届き、再解析 したカタログなどを収録したDVDがあるので、必要な方は山田、あるいは JASMINE検討室へコンタクト願います。

IAU Symposium 248 "A Giant Step: from Milli- to Micro-arcsecond Astrometry"の報告

京都大学大学院理学研究科、山田良透

10月15日から20日の一週間、上海の上海天文台でIAU Symposium No.248「A Giant Step:from Milli- to Micro-arcsecond Astrometry」が開催された。将 来のGAIA、SIMなどのスペースミッション、地上ではVERAなどの稼働中のミッ ションと将来ミッションの関係者、位置天文を使った理論研究者などが一堂に 会する研究会で、当初会場の都合で参加者を150名に制限するとされていたが、 結局200名程度が参加する大きな研究会となった。日本からも、宮本国立天文 台名誉教授、福島副台長をはじめ、JASMINE、VERAチームなどあわせて15名ほ どの参加があった。

初日はHIPPARCOSのレビューと地上の光・赤外線による観測、二日目は地上 の電波観測とスペース、三日目はreference frame、四日目はサイエンスと教 育、五日目はvirtual observatoryとデータアーカイブという構成である。 VERAの発表は二日目の午前中だったが、小林秀行氏による口頭での概要紹介の ほか、多数の若手のポスターが掲示され、多くの研究者がその成果に注目した。 他にも電波望遠鏡を保有している海外のサイトが位置天文学に興味を持ち始め ており、位置天文学のすそ野が広がってきたことが感じられた。

JASMINEはスペースミッションの中で取り扱われた。いつもの通り郷田氏が 「コミュニティーからの持続的なサポートをお願いします」と話すと、座長の Perryman(HIPPARCOS時代から中心的役割を果たし、GAIAでもPhase Aまで(2006 年まで)は彼がproject scientistを務めたヨーロッパ位置天文業界の実力者、 今回のシンポジウムのSOC chair)が「私のサポートならいつでもしてあげる」 と返してきた。GAIAのメンバーからのJASMINEの印象は良いようである。IAUシ ンポジウムとしては異例のことだと思うが、今後推進すべき4つのプロジェク トを集録の最初のページに書きたい、とSOC chairのPerryman氏からシンポジ ウム最後の議論の時間に提案があった。

  1. μas精度の光の望遠鏡SIM
  2. μas精度の電波の観測VLBA
  3. 赤外線でバルジというユニークなアイディアのJASMINE
  4. 非常に重要なカタログ作りにおけるUSNOの活動
の4つである。上記リストはすでに稼働を開始、もしくは全額予算がついて いるプロジェクトは除くという前提なので、このリストにはないが、日本の VERAやヨーロッパのGAIAの重要性は言うまでもなく皆認識している。

ところで、この研究会は、毎日夜のイベントが企画されている。初日のレ セプション、4日目のバンケットは通常だが、2日目には上海クルーズ、3日目 には雑技団の鑑賞、最終日は天文台施設(研究会場は市内にある建物だったが、 山の方にある施設、この季節は非常に山がきれいらしい)の見学会という具合 である。こういうイベントの時間も欧米のトップクラスの研究者との交流の場 となり、我々もSIMのリーダーであるShao氏をはじめとして、多くの研究者と 直接議論ができ、多くの示唆を頂いた。

ところで、会期中にニュースが飛び込んだ。なかなか決まらなかった Nano-JASMINEの打ち上げロケットについて、インターフェース調整と契約に向 けての会合が開始されるとの連絡が飛び込んできた。Nano-JASMINEへの期待は 特に大きく、四日目にはHoeg氏(ヨーロッパの位置天文の大御所)が「君たちの プロジェクトの話を聞きたい」と申し出てくれたので、セッションの合間に話 を聞いていただいた。HIPPARCOSの経験から、Nano-JASMINEをレビューしてい ただいたという感じであったが、このような偉い先生の方から申し出がありレ ビューしていただけることは、我々としても心強い。さらに、GAIAのデータ処 理メンバーからは、Nano-JASMINEの実データをGAIAの解析ソフトウエアのテス トに使わせて欲しいという申し出もあった。SIM、GAIAなどの先行ミッション の方々とは、今まで以上に密なお付き合いができそうな雰囲気ができてきた。

HIPPARCOSは従来大円解析と呼ばれる解析を行ってきた。「参照大円」とい う概念を使うと姿勢擾乱の影響を受けにくく、精度が維持できるという理屈だ。 ところが、今回(実は2年ほど前から今年にかけていくつかの論文が出ている) 大円解析をおこなうことが誤差の原因で、解析手法を変更する必要があるとい う発表があった。SIMのPan氏がMark III干渉計での結果とHIPPARCOSの矛盾を 突きHIPPARCOSの結果は信用できないと言えば、これに対してvan Leeuwen氏は 再解析を行ったが「Open clusterの距離はあまり変わらなかった。Sorry!」と 返した。今回の会議のタイトル、masからμasへの飛躍はなかなか難しそうで ある。たとえば、我々が固定点だと思っていたQSOは初期銀河の中心部にある 強いジェットだと思われているが、ジェットの構造変化に伴って星像中心位置 が変化する。この変化がμasレベルになれば無視できない、つまり星像中心を 観測する位置天文ではQSOは不動点ではないことになる。

GAIAはだいぶ年代が若返っている感じで、多くの若手によるGAIAの詳細な 検討結果の報告は、JASMINEメンバーにとっての最大の関心事である。データ 解析のPourbaixは連星や星の色の変化による効果を議論し、「他のカタログの 情報などを併用して精度が上がる」と言ったところ、Perrymanから「よく勉強 しているが、HIPPARCOSでは極力他のデータを使わないという『ポリシー』を まず決めたのだ。」と教育的指導が飛び出した。星の色や形状の変化で当然星 像中心は変化するが、長周期連星で星の形や色が微妙に変わることがμasレベ ルの観測では効いてくるらしい。0.03〜1AUも動くというのである。5年程度の スペースミッションの場合、長周期連星はあまり気にしていないのだが、そう はいかなくなった。我々が心配していたCCDの放射線によるCTIの劣化の効果は、 決定論的で予測可能とコメントされていたので一安心である。

星や銀河、バルジのサイエンスについても4日目に多くの発表があった。HR 図の精度はまだまだ足りないとか、銀河の形成と進化を知るにもモデルの精度 を上げるにはより高精度の観測が必要とか、中性子星・白色矮星・変光星など の物理を知るにもまだまだ高精度のデータに対する要求は強い。

Concluding remarksでは、提案されているミッションの総括・今後解決す べき課題などがまとめられた。この中で、「将来は赤外線による全天高精度サー ベイ」の方向性になるが、技術的課題はJASMINEの結果が参考になるだろうと、 再びJASMINEに対する期待が示された。我々としても、JASMINEが将来につなぐ 技術は「赤外線」と「部分観測」だと思っているが、その考えは世界にも受け 入れられた。

JASMINE、VERAをはじめとする日本からの参加者にとって、大変意義深い1 週間であった。

JASMINEの最近の動き

国立天文台JASMINE検討室、郷田直輝

最近の大きな動きとしては、IAU-S248への参加、発表とそこでの議論等の 結果が上げられる。詳細は、山田良透氏のIAU-S248報告にも記載されてあるの で、そちらをご参照願いたいが、大きな成果としては、次の通りである。
★位置天文コミュニティーとして、次の4つの(予算がついていない)計画の 推進を強く推薦(集録に文書を記載):SOCからの提案が承認された。
○赤外線、バルジのunique idea: JASMINE
○μ as精度の光学望遠鏡SIM
○μ as精度の電波観測VLBI
○USNOのカタログ作りの活動
★位置天文の大御所である、E.HoegさんにJASMINEとNano-JASMINEのレビュー を受けた。いくつか宿題も与えられたが、特に大きな問題点はなかった。
★GAIAのデータ解析チームより、Nano-JASMINEの観測データの使用を要望された。
★GAIAとSIMのリーダとも話ができ、JASMINEの大きな技術課題に関することで、 GAIAやSIMがどのように開発してるかをオープンに出来る範囲で議論に乗って もらえることとなった。
★Closing remarksでは、以下のコメントを頂けた。
○ JASMINEはGAIAが不得意なバルジのサーベイとして意義がある。
○将来は赤外線で全天高精度位置天文観測の方向が望ましい。
=>JASMINEの技術開発が参考になる

さらに、Nano-JASMINEに関して、2009年に海外のロケットでの打ち上げ (打ち上げ費用自体は無料)が濃厚となり、現在手続きを進めているところで ある。

VERAの最近の動き

国立天文台JASMINE検討室、本間希樹

VERAで初めての年周視差計測 成果が出版されました

1)S269の年周視差計測

S269(シャープレス269)はオリオン座の方向にある、若い星が生まれ ている領域で、今回VERAが、S269内のメーザー源の年周視差を検出す ることに成功しました。その結果、年周視差は189 ± 8マイクロ秒角(約2000 万分の1度)、天体の距離は1万7250 ± 750光年と求められました。さらに固 有運動の観測から、S269の位置(銀河系中心から約4万2700光年)での銀 河系の回転速度を計測することにも成功しました。得られた回転速度は、銀河 系の星の質量から期待される回転速度よりも大きく、太陽系とS269の間の 領域にも大量の暗黒物質(ダークマター)が存在していることも確認されまし た。具体的には、S269よりも内側の領域では、全質量の30%が暗黒物質で あると推定されます。

Honma et al. 2007, PASJ, 59, 889

2)Orion?KLの年周視差計測

Orion KL(Kleinmann-Low天体)はオリオン大星雲の中心にある赤外線星雲で、 太陽の30倍の質量を持つ巨大な若い星など多くの星が誕生しつつある活発な領 域です。そのため、星の誕生について研究を行う上で、Orion KLは最も重要な 観測対象として知られています。VERAで、2004年1月から2006年 7月までの間、 Orion KL領域にある水メーザーと呼ばれる強い電波源の位置を正確に測り続け ることによって、三角測量(年周視差計測)の原理でOrion KLの距離を1425±62 光年と決定しました。

今回の結果により、星形成領域の物理量をより高精度化することが可能に なると期待されます。

Hirota et al. 2007, PASJ, 59, 897

ILOMの最近の動き

国立天文台JASMINE検討室、花田英雄

ILOM計画とは?

In-situ Lunar Orientation Measurementsの頭字語で、月面に望遠鏡を設 置して位置天文観測を行い、月の内部構造を明らかにしようという計画です。 星の位置を1ミリ秒角以下の精度で1年以上観測を続ければ、月の自転軸の揺 らぎや自転速度の変動の成分に含まれる、月の中心核の情報(地球と同じよう に鉄を主成分とした核が存在するか? 解けているか?)や、マントルの情報 (どの程度非弾性的か?)を検出することができ、月の起源と進化の解明に大 きな貢献ができる。最近、アポロ探査機の月レーザ測距、月震、熱流量等のデー タの再解析が系統的に行われ、月の中心核が融けているかもしれないというこ とが言われ始めている中で、ILOM計画は月の熱史を知る上で極めて重要な情報 を明らかにすること目的としています。

ILOMの最近の状況

◆月面シミュレーターの開発

月面のレゴリス上に設置した望遠鏡の姿勢はどの程度安定か、どの程度精 密に駆動できるか等について調べるために、月面のレゴリスのシミュラントを 含んだ月面環境を模擬した月面シミュレーターの開発を計画しています。さし あたって、真空中のシミュラント上に物体を落下させ、落体の姿勢、沈み込み 量の測定を行っています。

◆地上モデルの開発

上記のような月面上での望遠鏡の特性を調べることや、実際に望遠鏡を作っ てみて初めてわかる問題点を認識するために、岩手大学工学部の船崎研究室と 共同で1/2の大きさの地上モデルの製作を開始しました(鏡筒と駆動機構を図 1に示す)。今後月面環境での駆動性能の試験を行う予定です。

発行:国立天文台JASMINE検討室・水沢VERA観測所・RISE推進室
発行責任者:国立天文台JASMINE検討室室長 郷田直輝、
編集:国立天文台JASMINE検討室 辻本拓司、